『夜のくもざる』2010/04/25

夜のくもざる
村上春樹『夜のくもざる』(新潮文庫、1998年)

村上春樹の超短編小説集。この超短編の中で「渡辺昇」シリーズが面白かった。「渡辺昇」は排水パイプの修理のあと鉛筆削りの話をしだす。結局「私」は鉄腕アトムのシールつきの古い鉛筆削り(1963年型マックスPSD)を「渡辺昇」に渡して、その代わりに「私」は新品の鉛筆削りを手にいれる(「鉛筆削り(あるいは幸運としての渡辺昇①)」)。

次に「渡辺昇」が登場したのは夜の6時半だった。今度は工事のお願いもしていないので何だろうかと「私」が思うと「実はお宅に旧型のタイム・マシーンがあるってうかがったもんで、もしよろしければ新型と交換していただければと…まあ、そう思いまして。」と「渡辺昇」。「私」は茶目っ気たっぷりに四畳半のこたつを見せて「ほら、タイム・マシーン」と言うと、「渡辺昇」は笑わずに「こりゃ旦那、逸品ですよ。」ため息をつきながら「すごい。昭和46年型ナショナルの『ほかほか』ですよ。」結局、「渡辺昇」はそのこたつを持って帰り、代わりに「私」は新品の電気ごたつ(あるいはタイム・マシーン)を手に入れた。「私」がその後こともなげに再びこたつに入ってみかんを食べるのが面白い(「タイム・マシーン(あるいは幸運としての渡辺昇②)」)。