#古谷経衡 『#愛国商売』(小学館文庫、2019年)2020/05/06

古谷氏の講演会があるというので、講演会に出席する前に読んでおこうと入手したが、新型インフルエンザ感染症のため講演会は中止。しかしながら目を通してみると本書は結構楽しく読めた。

主人公の南部照一は北関東の茨城県取手市で私書箱業を行う自営業者だったが、書評サイトを通じて知り合った書店員の岩尾徹から「公論の会」という右翼勉強会に誘われたのをきっかけに、あれよあれよという間に「ネット右翼(ネトウヨ)」の世界で有名人へと昇りつめる。

主人公の南部にとっては「サクセス・ストーリー」かもしれないが、「ネトウヨ」界の「(テレビ・新聞などの既存メディアを一切信じず、自分たちに都合の良いネット情報を過信するという)レベルの低さ」「論者自身の収入をどうやって稼ぐか、守るか、増やすかという経済的打算に基づく内部抗争」「勉強会構成員の血気盛んな直情径行」などを小説の形で表現している。ネトウヨ界の論者たちの中には「どうすればネトウヨに受けるか」を考え、事実に基づかない「陰謀論」「反韓国・朝鮮」「反中国」を威勢よく唱え、これを聞きに集まる者から会費を徴収することで月々の生活を成り立たせている。まさに「愛国」を商売にしている。

この文庫には佐藤優氏の解説がついている。解説のタイトルが「自らのグロテスクで滑稽な姿を見つめよ」となっている。「ここで古谷氏が試みているのは、保守派の欺瞞を暴くことではない。保守派、リベラル派を問わず、政治的な事柄に関わる人々が、必然的に陥る罠を描こうとしたのだ」(443ページ)という佐藤氏の言葉がグサリと刺さる。

本書で主人公が講演した際に明確に否定した「ルーズベルトが真珠湾攻撃を事前に知っていて、それを知って虎の子の航空母艦を真珠湾から他の地に移動させていた」という話を『なぜアメリカは対日戦争を仕掛けたのか』(加瀬英明、ヘンリー・S・ストークス著、祥伝社新書、2012年)で読んで、これを信じていたからだ。恥ずかしいことだが、歴史的なことは複数の書籍にあたらないと「トンデモ話」に引きずられてしまうことを実感させられた。