アレグリアとは仕事はできない2010/10/16

アレグリアとは仕事はできない
津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』(筑摩書房、2008年)

わが職場でもコピー・ファックス・プリンター・スキャナーの複合機を使っている。確かに、モノクロだけでなくカラーもプリント・アウトできるので重宝している。しかし、コピーの命令を出しても、スキャナーのウォーミング・アップに時間がかかるとかいうことで、コピーのボタンを押してからコピーができあがるまでの間にトイレに行って用をたすことができる。急いでいるときにはこの時間がまどろっこしくてしょうがない。ファックスのときもそうだ。機械の上に原稿は載っているのに機械がなかなか吸いこもうとしない。パソコンからプリント・アウトの指示をしてもやはり時間差がある。

表題作は、地質調査業者で資料の大型コピーや製本などを担当する女性職員ミノベと、彼女があつかう大型複合機「アレグリア」との話。スキャナーやプリンターとして、大変速く反応して社長を含む男子職員の多くを喜ばせるのに、「アレグリア」にコピーをさせると途中で突然とまったり休んだりするし、エラーになってばかり。想像するに著者は「アレグロ」(急速に)にひっかけてこの機械にこんな名前をつけたが、アレグリアは1分作動したら2分休んでしまう。全く速くない。

この「アレグリア」に主人公はミノベは不満をはき続ける。

「おまえなあ、いいかげんにしろよ!」「何分休むんだよ! 後輩ならロッカーで殴ってるぞ、なんびとも遭ったことのないような残酷パワハラにさらしてやる」(7ページ)。主人公ミノベが機械にこう言いたくなる気持ちは本当によくわかる。人間の仕事を楽に終えられるようにスムーズに働くのが機械のはずなのに、逆に機械に人間がふりまわされている。こんな事態になると、何のための機械なんだか分からないと私も思うことがある。

「アレグリア」にコピー用紙のロールがしっかり入っているのに「用紙切れ」のサインが出てとまる(16ページ)。ロールをしまっているトレイを何度も開け閉めしても、電源を切ったり入れたりしても「用紙切れ」のサインはなくならない。主人公ミノベの先輩トチノが試しに新しいロールにかえてやると、今度はスムースに動きだした(17ページ)。まだ用紙が十分にあるのに「用紙切れ」の反応をするというひどい機械だ。

トチノ先輩がA1サイズのコピーをしていると、アレグリアはまたエラーサインを出して止まった。「コード253 サービスマンエラー」だという。ところがミノベが取扱説明書を隅から隅までみても、コード253のエラーなんてどこにも書いていない(22ページ)。ミノベがサービスセンターに電話して苦情をいうと「サービスマンを派遣します」という。さらにミノベが電話で苦情をくどくど言っているうちに、トチノ先輩の「ああー直ったー」という声が聞こえてきた(25ページ)。愕然とするミノベだが、サービスマンの派遣の取り消しの電話をしなかったので、定時の17時すぎにサービスマンがやってきた。サービスマンに苦情を言い続けても、ミノベの思いを理解しようとしない。ミノベには、アレグリア自体のエラーの多さではなく、職場の誰からもアレグリアについての自分の思いを理解されていないという孤独にさいなまれる。

アレグリアがとうとうコピーだけではなくて、プリントアウトやスキャンも出来なくなるという大変な故障を起こす。でもミノベ自身にはそのことよりももっと大きな出来事があったのだった。

本書にはもう1編「地下鉄の叙事詩」という作品も入っている。満員電車で誰もが感じる苦痛さ、不快感をいやというほど見せつけられて、読んでいてつらかった。さらにこの満員電車に痴漢をする男がいる。最後のあたりで幾分溜飲が下がるのだが、読んだあとに何かひっかかるものを感じた。