姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』2019/12/25

姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋刊、2018年)
#姫野カオルコ #彼女は頭が悪いから #上野千鶴子

今年2019年の東京大学の入学式で上野千鶴子名誉教授が例年とは大きく異なる祝辞をよんだ。 https://wan.or.jp/article/show/8334
その中で触れられていた本。

東京大学の学部生と大学院生による女子大生への強制わいせつ事件が実際にあり、それをモチーフに書かれた本である。庶民的な家庭に育った神立美咲(かんだち・みさき)が、事件に遭うまでの経緯を時系列的に書いている。

読みやすい文体で途中までスムースに読めたが、途中からは読むのがつらくなった。以下は感じたことを箇条書きにする。(ネタバレ御免)

・ある大学の男子学生が「大学名だけでモテる」というのは異常(モテなかった男のひがみかもしれない)。確かに「偏差値」が高く、将来の高収入も約束されているエリート大学の学生かもしれないが、一人一人の個性とか人格に関係なくモテるというのは、モテている本人も増長させるしそれに近づく異性もどうかしているのではないか。

・ある大学に合格したというのはその人の属性の1つでしかないのに、それを極端に重視するのは異常ではないか。

・偏差値の高い大学に受かった学生は、そうでない人に何をしても構わないという誤った「万能感」。学歴が「高い」人はそうでない人を見下してよいとする異常な「優越感」。このような「優越感」が「劣等感」の裏返しであることは、この本からもうかがいしれる。

・受験勉強と引き換えに「他人への思いやりや同情」「人と人との間の感情的なつながり」を失わせてしまう、現在の受験システムに問題があるのではないか。特に、短い時間の間に、与えられた多くの問題を誤りなく解けるようにしないと試験に合格しないというシステムがあると、受験生は試験以外にもある大切なことを全て切り捨てないとならなくなるのではないか。

・東京大学の男子学生と他の女子大学の学生との「飲みサークル」自体は問題ではないかもしれないが、飲み会後の性交が半ば定例化し、参加した女性の「裸体動画」等をネットにアップして閲覧者からカネを取るという下品な「システム」に唖然とした。このような品のないことをしていて恥ずかしいと思わないのはどうかしている。それから女性と関係を持ちたいのであれば一人でやれば良いのであって、「サークル」を使ってそれこそ「サイクル」のように次から次へと女性を「調達」するという仕組みを作らねばいられない、あるいはそれが問題あると気づかない感覚が分からない。

・加害者の男子学生に共通する「父親への嫌悪感」

・自分が誤っているかもしれない、ということを考えられないのは不幸だ

とにかく後味が悪い小説。自分が大学生だったときに、このような環境にいたら加害学生と同じことをしたかと言うと、そうは思わない。ただ自分が小学生の時にした男どうしでのいじめを思い出させられた。仲良かった男の子と一緒につくったプラモデルを、他の男の子と一緒になって燃やしたり壊したりしたことは、思い返しても悪いことをしてしまったな…と。

この本の救いは、主人公の神崎美咲の大学の先生「三浦紀子教授」。かつて男子学生からひどい言葉をかけられて苦しい思いをしてきた三浦教授が神崎美咲にただよりそってくれたのを見ることで、いくらか救われた気がした。