ガロア-天才数学者の生涯-2012/07/11

ガロア-天才数学者の生涯-
加藤文元『ガロア―天才数学者の生涯―』(中公新書、2010年)

多くの場合、数学の研究者は、世事から遠く離れて学問の世界に没頭するものだと思う。人間社会とは大きく異なり、極端に抽象化された世界にひたりこんで考えるのが数学だからだ。人間社会で何が起ころうと絶対的な真理が数学の世界にあるのだ。

ところが19世紀フランスの数学者ガロアはまったく異なる。共和派と王党派が争い続ける19世紀のフランスにあって、学生のうちから「人民の友社」という共和派の運動に関わり、それが原因で校長から放校処分を受けてしまう。放校処分の直後には「国家防衛砲兵隊」という共和派の結社に身を投じる。逮捕され、監獄暮らしを余儀なくされる。決闘をして20歳で亡くなるという急転直下の人生だった。

若くして亡くなるガロアだが、この短い生涯の間に近代数学史上最大ともいえる業績を残している。彼が考えた理論はのちに「ガロア理論」とされる。これは「数学的対象の難しさを、それに付随した対称性全体から成るシステムの構造によって記述する学問である」(245ページ)。

ガロアのいう「難しさ」「曖昧さ」と対称性について著者は方程式の根(解)を例にして説明している。

「1次方程式の根は1つしかない。それは簡単であると同時に1つに決まるという意味で曖昧さがない。しかし二次方程式の根は2つ同時に現れる。これらをαとβを用いて表すことが多いが、どちらがαでどちらがβなのかは決められないし、その区別は重要でもない。その意味で二者択一の曖昧さがある。そしてその曖昧さを統制するのが対称性、つまりαとβを入れ替えるという対称性である。」(248ページ)

二次方程式x2(xの二乗)+ax+b=0の解の公式はx=(-a±Q)/2 (ただしQはa2(aの二乗)-4bの平方根)。この公式に2つの解の対称性が現れている。すなわち+Qと-Qの対称性である。しかもこの方程式の解をαとβとしたとき、いわゆる判別式の平方根Qはαとβの差となる。「判別式の平方根を根の差で表すと、そこに見えてくるのは二つの根の入れ替えによって、その符合が替わる、つまり+(プラス)と-(マイナス)が入れ替わるという特徴的な性質である」(85ページ)。

このように「難しさ」「曖昧さ」が対称性のシステムで制御されているという考え方は、代数方程式だけでに適用されるのではなく、関数の難しさや空間の難しさにも適用される。この曖昧さを制御するのが「群」という対称性のシステムである。(249ページ)。ガロアのこの考え方は、計算だけによるのではなく概念をも対称とした「高位の数学」を予言したものであり、西洋数学の19世紀革命を予言したものであった。(246~247ページ)

現代数学の理論について全く知らない私にも、ガロアの「素晴らしさ」が丁寧に説明されており、とても興味深かった。難しいことを分かりやすく書こうとする著者の苦労には脱帽の思いだ。